Naked Cafe

横田創(小説家)

批評

小説にとってはすべての言葉がなつかしく、映画にとってはどんな風景であってもなつかしい

なにかを見て思い出すのでも、思い出したいなにかがあるのでもなく、ただ「思い出す」という欲望だけが先に作動している。だから小説にとっては、すべての言葉がなつかしい。I Guess Everything Reminds You of Something=なにを見てもなにかを思い出す。こ…

緊急企画 安全保障関連法案とその採決についてのアンケート への回答(全文)

『早稲田文学 2015年 秋号』に掲載されたアンケートへの回答の全文をここに掲載します。250字という依頼を2500字と勘違いして書いてしまった、推敲前のものです。 * 強姦した者は、してないとは言わない。したはしたけど、和姦だったと主張する…

リリイ・シュシュ、映画の主体の脱構築

ユリイカ2012年9月号 特集=岩井俊二 『Love Letter』『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』から『ヴァンパイア』へ、未知なる映像を求めて作者: 岩井俊二,奈良美智,蒼井優,斎藤環,清水康之出版社/メーカー: 青土社発売日: 2012/08/27メディア: ム…

この先の方法

YES(or YES)作者: 橘上出版社/メーカー: 思潮社発売日: 2011/07メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 54回この商品を含むブログを見るいま思えば橘上は、あのころからすでに同じことをしていたのである。あのころ、というのはわたしが雑誌『現代詩手帖』で映…

豆腐の肉

(十月の、とある日曜日に、友だち夫婦の家で思うぞんぶん料理をさせてもらうという、なんとも楽しい機会を得た。ふたりが住む浜田山の白くて古いきれいなマンションの近くにあるカルディで乾燥キクラゲを見つけ、いまだに節電モードで薄暗い西友の食品売り…

朝までずっと流れているのに、誰にも聞かれずにいる音楽

ハラカミ・レイ[rei harakami]の音楽の偉大さは、和音の響き中のひとつの音として音をとらえるのではなく、或るひとつの音の中に別の音を響かせたことにあると思う。揺らぎとも、響きとも、ときには不安とも呼ばれるそれは音の効果ではなく、音のふるさと…

〈ダメな女〉たちへ

芸能人は、多忙による擦れ違いで別れる。世間はそれ以外の方法で芸能人の夫婦を、あるいはカップルを別れさせてはくれない(多忙でなければならない、そして、擦れ違いでなければならない)。おしゃれに目覚めたばかりの中学生の女の子は、不自然なほど、ぴ…

自動音楽[バロック・ミュージック]

携帯電話で話すひとの声は、なぜあれほどまでに気になるのか、うるさいと思うのか。誰もが一度は考えたことがあるそんなことを、しつこくわたしは考えてきた。カフェで話しているのは、携帯電話で話しているその子あるいはそのおっさんだけではないというの…

存在論的なまどろみの中で〜『天使の囀り』を読む〜

ユリイカ2011年3月号 特集=貴志祐介 『黒い家』『硝子のハンマー』『新世界より』『悪の教典』『ダーク・ゾーン』・・・エンターテインメントの革新作者: 貴志祐介,町田康出版社/メーカー: 青土社発売日: 2011/02/28メディア: ムック購入: 2人 クリック: 30回こ…

新しい時間

鏡を割っても割っても、小さな破片のなかに空が映っている。巣のないツバメ、もちろん聞きおぼえのない女の叫び、今シャッターを閉めたのか開けたのか、朝なのか夕方なのか、姿の見えない救急車は病人を迎えに行くところなのか搬送するところなのか。モンマ…

埋葬

埋葬 (想像力の文学)作者: 横田創出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2010/11/25メディア: 単行本購入: 10人 クリック: 480回この商品を含むブログ (19件) を見る あたしが死んだことを受け止めてくれるなら、あたしのことを思い出さない日は一日だってないま…

富岡多恵子初期短編

群像 2010年 12月号 [雑誌]出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/11/06メディア: 雑誌購入: 1人 クリック: 20回この商品を含むブログ (12件) を見る11月7日発売の『群像 12月号』のコラム「私のベスト3」に「富岡多恵子初期短編」と題したエセーを発表…

体の畑

なんか最近、畑のような感覚で、自分の体のことを考えています。体内環境、とでもいいますか。ビタミン剤やゴマのセサミンのカプセルみたいなサプリメントが体にいいと信じているひとは、一度それを畑に撒いてみるといいと思います。かならずや無駄だと実感…

きみをも私をも超越したこの贈り物

わたしたちは、経験でないものまで経験することができる。これはなにより精神分析学によるところが多い発見であり実践でした。そしてその解明であり治療でした。それはもちろん、いまなおつづく旅である*1。ストレスというなんともゆるい言葉に一手に担われ…

わたしの目の前に、まるで本のように 表象論3

一人の死者を注意深く眺めていると奇妙な現象が生じる。体に生命がないことが、体そのものの完全な不在と等しくなる。というよりも、体がどんどん後ずさっていくのだ。近づいたつもりなのにどうしても触れない。これは死体をただ見つめている場合のことだ。…

表象のパラドクス 表象論2

たとえば、西瓜。いまごろ日本各地の畑で、あんなにおおきなものが、あんなにたくさんごろごろしていると、見る者が声をあげずにおれないほどまるまるとふとった西瓜。濃い緑の中にかなり大胆なタッチで黒い亀裂模様を走らせた西瓜。叩くと厚い皮が太鼓の膜…

あらためてこうして  表象論1

あらためてこうして眺めてみると、あるいは聞いてみると違ったように見えたり聞こえたりするのは日常的によく起きることです。やはりわたしは料理のことを思い出します。ふだん自分でつくっているわたしは、よく自分でもつくるし、何度も食べたことがある料…

光のなかにしっかりおさまっている

夜と灯りと (新潮クレスト・ブックス)作者: クレメンスマイヤー,Clemens Meyer,杵渕博樹出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/03メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 47回この商品を含むブログ (15件) を見る5月6日発売の『すばる 6月号』に、クレメンス…

石の娘

先月、フットサルの練習にお呼ばれして、二十年ぶりにサッカーボールを蹴って、走って、ターンして、何度も転んで、膝を痛めた。わたしは膝を痛めた。わたしはわたしの膝を痛めた。痛めた膝はわたしのもので、ひどくわたしは痛みを感じていた。わたしの膝だ…

自分はどんな傷を負っているのか。いつどこで、どんな傷を負わされているのか。見つめる。それはなにも作家の仕事だけでなく、人間にだけ課せられたものでもなく、すべてのものに負わされている使命だと思う。わたしにとって、それはなにかを言うことでした…

君に届け

それはもちろんtwitterで、いま自分が思ったことを、ぱ、とその場でつぶやければいいと思う。それが一番いいと思う。などとこの場で、つまりはブログで、ぱ、とこんなことを書くことができるわたしが言うことではないかもしれないけど、あくまでもそれは、で…

その他のすべてのもの

国民経済学、すなわち富についてのこの科学は、同時に諦めの、窮乏の、節約の科学であり、そして実際にそれは、きれいな空気とか肉体的運動とかへの欲求さえも、人間に節約させるところにまで達している。驚くべき産業[勤勉]の科学は、同時に禁欲の科学で…

模倣の受難者

ひろき葉は樹にひるがへり光りつつかくろひ[隠ろひ]につつしづ心なけれ 茂吉 この歌を読みながら、ときに小さな声で口ずさみながら、わたしはこの歌を幾度も写生してきた。「イメージしてきた」と書いたほうが分かりやすいのだろうが、どうだろう、それで…

つねにしてすでに命は

わたしたちは、生きている限り、つねにしてすでに命に脅迫されている。この「つねにしてすでに」という副詞をわたしが使うようになってすでにひさしいが、としか言いようがないところにこの副詞の強度はある。「わたしたちは、生きている限り、命に脅迫され…

神と見紛うばかりの

ユリイカ2009年10月臨時増刊号 総特集=ペ・ドゥナ 『空気人形』を生きて作者: 是枝裕和,山下敦弘,ペ・ドゥナ,宇野常寛,佐々木敦出版社/メーカー: 青土社発売日: 2009/10/13メディア: ムック購入: 5人 クリック: 108回この商品を含むブログ (29件) を見る10…

他人の国

選挙という嫌な季節がやってきた。政治家の口からポピュリズムという言葉を聞くたびわたしは片腹痛くなる。ちゃんちゃらおかしい。ポピュリズムにのっとってない政治があるなら見せて欲しいと思う。それは選挙によって選ぶのではない政治家たちの政治で、い…

愛すること、怒ること

わたしのような愛し方をすることだけが愛することだとはもちろん思わないが、そのひとなりの愛し方が、いくら考えても見あたらないというか見いだせないとき、わたしはどうしようもなく暗い気持ちになる。なぜなら、どのような愛し方であれ、それがキリスト…

最後の詩

生活について考えることがほかのなににも増しておもしろいのは、水を抜いて水槽の掃除をするみたいに一度なしにするというか、リセットしてから改良したり、工夫をこらしたりすることができないからだと思います。すでにしてつねに始まってしまっているわた…

意志と自然の極北

わたしたち人間は意志する。意志しない人間など「人間」と呼ぶに値しないと言われるほどに意志する。つまり意志は人間にとって人間であることのあかしであり根拠である。当たり前だが、意志は自動的ではないし自然に準ずるものでもない。むしろそれに立ち向…

声の永遠回帰

ずっとむかしから、早逝したミュージシャンや伝説のバンドについて語るのも語られるのが苦手で、なぜかというと、正直、好きなミュージシャンやバンドについて語るひとたちのノリについていけなかったからで、けどそれは、なにもバンドに限った話でないこと…