Naked Cafe

横田創(小説家)

RECIPE BOOK GUIDE 東京 2008

2月7日発売の『群像 3月号』に「三つ星」がお題のコラムを書きました。タイトルにあるとおり、レシピブックをできるだけたくさん紹介しようとしたのですが、いかんせん枚数が枚数ですから早々にあきらめ、三冊だけ紹介することにあいなりました。すべて☆二つなのですが、その理由はさておき、どれもみな最高のレシピ本です。

群像 2008年 03月号 [雑誌]

群像 2008年 03月号 [雑誌]

ちいさいときから、てきとーに、慣れた手つきで醤油とみりんとお酒で味付けをしている母親を見て育って、料理ができるひととはレシピなんてものを見ないでも作れるひとと思いこんでいる料理のできるひとにこそレシピと料理の素敵な関係を知ってほしいし、料理のできないひとなら、一字一句読み落とすことなくレシピを読んで、書かれているとおりの食材を書かれたとおりの分量で買って、書かれたとおりに切って、焼いたり煮たり揚げたりすれば、自分で作ったとはにわかには信じられない料理がいつもの食卓に並ぶはずです。

レシピはすでにひとつの料理です。小説が現実の反映でも、現実に反映させるためのものでもなくて、すでにそこではなにかが起きているし、そことは言葉と言葉の、言葉と思惟の、思惟と思惟との関係のひらかれであり集中であるように、レシピは関係としての料理なのです。読んでるだけで、まだ食べてないのに「おいしそう!」じゃなくて「おいしい!」と思わず口にしている。もう何度この言葉を口にしてきただろう、わたしたちは表象を食べて生きている。いつも外だけが充実している。期待と不安に満ちあふれている。まだしてないのにした気になって、もうとっくの昔に過ぎたことなのに、し忘れていた用事のように思い出す。レシピは鶏肉や豚肉よりも直接的で、タマネギやニンジンよりもこの世界に連続している感情であり、畑や海や山のようにひろがる風景なのです。

野菜ばっかり

野菜ばっかり

畑のそばでうまれたレシピ 温かい野菜料理 (オレンジページブックス)

畑のそばでうまれたレシピ 温かい野菜料理 (オレンジページブックス)

野菜だより

野菜だより