Naked Cafe

横田創(小説家)

囁くような関係

この二年、いや、三年、それまでのわたしでは考えられないほどたくさんのアニメーションを観てきた。テレビ版を一秒も観たことがなかったわたしが映画館で「エヴァンゲリオン〈序〉」を観た感想は、おそらく賛否両論あるであろう、テレビ版とはくらべられないほどきれいに加工処理された絵ではなくて、地鳴りのように映画館の通路や天井を震わせる戦場の「音がすごい」だった。残念ながら、声はあまりおぼえていない。

アニメの中に好きな声をたくさん見つけることができるのはなぜなのか、誰か知っているなら教えて欲しい。実写の映画と違ってアフレコで、どの声もマイクの近くで発せられ、息づかいもそのままに記録されるからだろうか。新海誠監督の『秒速5センチメートル』の第1話「桜花抄」のふたりの声が好きだ。特に明里[あかり]の声が好きだと、いま、言おうとしたけど、同じように、特に貴樹[たかき]の声も好きだ。どこかで聴いたことがある声だと思ったら、わたしの大好きな映画『月光の囁き』の彼[水橋研二]だった。そうだった、あの映画の、ひざまずいた彼の手や足を踏みつける女の子を見あげるときの濡れた瞳もやばかったけど、声もかなーりやばかった。なぜなら彼は言う場面より、息を飲む場面のほうが多かったから。

いや、違う。すぐに「いい声」みたいな話になってしまう。けど、そうではなくて、なんというか、マイクと口の、そしてヘッドフォンと耳の関係がわたしは好きなのかもしれない。あと、口と耳の直接的な、囁くような関係が。極端な話、その関係に入ればどんな声でもきっと「いい声」になるとわたしは思う。きょうはまだ眠れそうにないからこれから『雲のむこう、約束の場所』を聴こうと思う。

ぜひ、ヘッドフォンをして。……『秒速5センチメートル』第一話「桜花抄」