Naked Cafe

横田創(小説家)

君に届け

それはもちろんtwitterで、いま自分が思ったことを、ぱ、とその場でつぶやければいいと思う。それが一番いいと思う。などとこの場で、つまりはブログで、ぱ、とこんなことを書くことができるわたしが言うことではないかもしれないけど、あくまでもそれは、できればの話である。できないひとがいることを、どうか忘れないで欲しい。

それができるひとからすれば、なんでそんなことができない? やれないんじゃなくて、やろうとしないだけなんじゃないかと思うかもしれない。けど実際は、そうじゃない。クラスで友だちと普通に話せばいいじゃないか、自分から話しかければいいじゃないかと思うかもしれないけど、その普通が実にやっかいで、どうしても彼女にはその普通ができない。普通でないことならいくらでもできるけど、その普通だけが彼女にはできない。

言えばいいわけにしかならないのがわかっているから、いまはなにも言いたくないしなにも言えない。ただできないものはできないだけで、嫌なものは嫌なだけで、なにに文句があるわけでも、ましてや恨みがあるわけではない。ただ普通であることを、自然にそうできることを自分に押しつけようとした途端に文句が言いたくなるし恨みで体が熱くなるのがわかる。つぶやかれているすべてのことが教室や女子トイレでなされる噂話みたいなものに思えてしまう。どうしてもそう思ってしまう。みんなのことを嫌いになどなりたくないのに嫌いと思ってしまう。だからいまはなにも言いたくないしなにも言えない。ましてやそれをtwitterでつぶやくことなどできない。そもそも彼女は携帯電話すら持っていない。

そんなの信じられないとひとは言うかもしれない。気が知れないと思うかもしれない。けどひとりでいるときはひとりでいることになんの不満もなかったし不思議なことなどひとつもなかった。自然だった。嫌々したことなんてひとつもなかった。たとえこれからどれだけすいすいつぶやくことができるようになったとしても、この自然だけは彼女の中から失われることはないと思う。誰かのことを強く思うことと、誰かに思われない自分を思うことは、祈りと恨みくらい違うことだと思うから。

……DJ HIROKAZがブログ"BINRAN CONTINUE"で紹介してくれた宇多田ヒカルの"Letters"を聴きながら『君に届け』の漫画とアニメのあいだを往ったり来たりしながら、彼女たちが絵と言葉とその声の中で生きている崇高な関係を思いながら。
☆アニメ『君に届け』公式サイト☆ http://www.ntv.co.jp/kiminitodoke/