Naked Cafe

横田創(小説家)

批評

ドライブ・マイ・カー/濱口竜介

テキスト(『ワーニャ叔父さん』)に語らせる。自分の知らない妻を目撃してしまった自分が言いたくても言えなかったこと。言えたとしても言いたくないこと。でもほんとは言いたくて言いたくて仕方がなかったことを『ドライブ・マイ・カー』は映画の純粋によ…

ロングバケーション/山口智子✕木村拓哉✕北川悦吏子

みんな南(山口智子)になればいい。猛獣になればいい。性は女のものだ。語られるべき性は女のものだ。女の性は最初から言葉で。記憶で。なつかしい*1。女になればするべきことがわかる。まぶたを閉じてもわかる。言って欲しいことがわかる。見てないからこ…

エリカについて/小野絵里華

絵里華のすること。やること(書くこと)にはいつも作為[Art]がある。たぶん本人はSFだと思っている(SFではない)。天然。自然。自由。奔放。鹿が新芽を食べる。むしゃむしゃ食べる。脱いだストッキングがまるまっている。夜中に台所で言いたい放題。…

読者主義者宣言

図書館で本を借りる。この方法で自分の本が読まれることを拒絶する作家が大嫌いだ。なにがしたくて仕事をしているのか。書いているのか。理解できない。読まれることが目的ではないのか。金を稼ぐのが目的ならほかにもいくらでも仕事がある。自分にできる仕…

関係について

関係には親子関係と恋愛関係しかないという確信がわたしにはある。 人間関係に限った話ではない。すべての関係は親子関係(ずっと永遠にこのまま)と恋愛関係(いまこのときがすべて)のどちらかであり、どちらでもあることもできる。異なる2つの愛のかたち…

種なしパン

高2の夏休みにこの本を読まなければわたしは作家にならなかった。なるほどそうか。そういうことかとこころの中で膝を打つ代わりにページの角を折る。折りすぎて折る意味がないくらい折った。おかげでその夏わたしは自殺をせずに済んだ。過越の祭。読書によ…

この世界の(さらにいくつもの)片隅に/こうの史代✕片渕須直

ひとり死ねばじゅうぶんだ。いや。じゅうぶん過ぎる。死者はいちにちの売上のように数えることはできない。死者には1以上の数はない(1か0か。無事か死か)。すべてが同時に生まれ、すべてが同時に失われる。この世界には(さらにいくつもの)数えること…

♫Give me 毎月3億円(非課税)/chelmico

www.youtube.com わたしが3億年前からずっと言いたかったことを代わりに言ってくれてる気がする。♫落ちついたらビキニ身につけてワイキキビーチにでも行きたいけどどんなところかはよく知らないyeah……わたしもたぶんこんな気持ち。

様々なる意匠=イデオロギーズ/福田和也

ますますポリティカルなコレクトネスが全盛になる、つまりは芸術家がみずからすすんで政治に取り込まれることを(無自覚に!無批判に!)望むこの時代にこの2冊以上に読むべき本が見当たらない。n度目のおすすめ。ポリコレ的な振る舞いにイラッとしたとき…

懐かしい未来への冒険

筑摩書房のPR誌『ちくま 2月号 』に『睦家四人姉妹図』の書評を書きました。 言わずもがなのことではあるが、おもしろい小説があればそれはミステリである。ミステリとして読むことのできない小説が読者を魅了する可能性はない。理由は単純である。ミステ…

富岡多恵子初期短編(転載)

富岡多恵子の短編集の中で、いまわたしがくり返し読まずにおれないのは『動物の葬禮』と『遠い空』と、そして1976年に一年間この『群像』に連載された『当世凡人伝』である。と三冊選ぶのが正直精一杯なのだが、なかでもいちばん中毒性が高いこの短編集…

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

なぜわたしは「わたし」なのか。この「わたし」でなければならなかったのか。答えのないこの問いに応えるための唯一の方法。それは、あなたでなければならない「あなた」を見つけることだ。代わりがいないことが喜びに変わることが「わたし」たちには必要な…

奇妙な廃墟

表現者の起こした事件が起きるたびに思う。思い知らされる。福田和也の『奇妙な廃墟』という名を与えられた仕事の偉大さを。 奇妙な廃墟―フランスにおける反近代主義の系譜とコラボラトゥール (ちくま学芸文庫) 作者: 福田和也 出版社/メーカー: 筑摩書房 発…

小説にとってはすべての言葉がなつかしく、映画にとってはどんな風景もなつかしい

なにかを見て思い出すのでも、思い出したいなにかがあるのでもなく、ただ「思い出す」という欲望だけが先に作動している。だから小説にとっては、すべての言葉がなつかしい。I Guess Everything Reminds You of Something=なにを見てもなにかを思い出す。こ…

緊急企画 安全保障関連法案とその採決についてのアンケート への回答(全文)

『早稲田文学 2015年 秋号』に掲載されたアンケートへの回答の全文をここに掲載します。250字という依頼を2500字と勘違いして書いてしまった、推敲前のものです。 * 強姦した者は、してないとは言わない。したはしたけど、和姦だったと主張する…

リリイ・シュシュ、映画の主体の脱構築

ユリイカ2012年9月号 特集=岩井俊二 『Love Letter』『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』から『ヴァンパイア』へ、未知なる映像を求めて作者: 岩井俊二,奈良美智,蒼井優,斎藤環,清水康之出版社/メーカー: 青土社発売日: 2012/08/27メディア: ム…

この先の方法

YES(or YES)作者: 橘上出版社/メーカー: 思潮社発売日: 2011/07メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 54回この商品を含むブログを見るいま思えば橘上は、あのころからすでに同じことをしていたのである。あのころ、というのはわたしが雑誌『現代詩手帖』で映…

豆腐の肉

(十月の、とある日曜日に、友だち夫婦の家で思うぞんぶん料理をさせてもらうという、なんとも楽しい機会を得た。ふたりが住む浜田山の白くて古いきれいなマンションの近くにあるカルディで乾燥キクラゲを見つけ、いまだに節電モードで薄暗い西友の食品売り…

朝までずっと流れているのに、誰にも聞かれずにいる音楽

ハラカミ・レイ[rei harakami]の音楽の偉大さは、和音の響き中のひとつの音として音をとらえるのではなく、或るひとつの音の中に別の音を響かせたことにあると思う。揺らぎとも、響きとも、ときには不安とも呼ばれるそれは音の効果ではなく、音のふるさと…

〈ダメな女〉たちへ

芸能人は、多忙による擦れ違いで別れる。世間はそれ以外の方法で芸能人の夫婦を、あるいはカップルを別れさせてはくれない(多忙でなければならない、そして、擦れ違いでなければならない)。おしゃれに目覚めたばかりの中学生の女の子は、不自然なほど、ぴ…

自動音楽[バロック・ミュージック]

携帯電話で話すひとの声は、なぜあれほどまでに気になるのか、うるさいと思うのか。誰もが一度は考えたことがあるそんなことを、しつこくわたしは考えてきた。カフェで話しているのは、携帯電話で話しているその子あるいはそのおっさんだけではないというの…

存在論的なまどろみの中で〜『天使の囀り』を読む〜

ユリイカ2011年3月号 特集=貴志祐介 『黒い家』『硝子のハンマー』『新世界より』『悪の教典』『ダーク・ゾーン』・・・エンターテインメントの革新作者: 貴志祐介,町田康出版社/メーカー: 青土社発売日: 2011/02/28メディア: ムック購入: 2人 クリック: 30回こ…

新しい時間

鏡を割っても割っても、小さな破片のなかに空が映っている。巣のないツバメ、もちろん聞きおぼえのない女の叫び、今シャッターを閉めたのか開けたのか、朝なのか夕方なのか、姿の見えない救急車は病人を迎えに行くところなのか搬送するところなのか。モンマ…

埋葬

埋葬 (想像力の文学)作者:横田 創早川書房Amazon あたしが死んだことを受け止めてくれるなら、あたしのことを思い出さない日は一日だってないままあたしのことを忘れてくれると思う。植物が日の光に向かって葉をひろげるように、あたしのことを思い出せば思…

富岡多恵子初期短編

群像 2010年 12月号 [雑誌]出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/11/06メディア: 雑誌購入: 1人 クリック: 20回この商品を含むブログ (12件) を見る11月7日発売の『群像 12月号』のコラム「私のベスト3」に「富岡多恵子初期短編」と題したエセーを発表…

体の畑

なんか最近、畑のような感覚で、自分の体のことを考えています。体内環境、とでもいいますか。ビタミン剤やゴマのセサミンのカプセルみたいなサプリメントが体にいいと信じているひとは、一度それを畑に撒いてみるといいと思います。かならずや無駄だと実感…

きみをも私をも超越したこの贈り物

わたしたちは、経験でないものまで経験することができる。これはなにより精神分析学によるところが多い発見であり実践でした。そしてその解明であり治療でした。それはもちろん、いまなおつづく旅である*1。ストレスというなんともゆるい言葉に一手に担われ…

わたしの目の前に、まるで本のように 表象論3

一人の死者を注意深く眺めていると奇妙な現象が生じる。体に生命がないことが、体そのものの完全な不在と等しくなる。というよりも、体がどんどん後ずさっていくのだ。近づいたつもりなのにどうしても触れない。これは死体をただ見つめている場合のことだ。…

表象のパラドクス 表象論2

たとえば、西瓜。いまごろ日本各地の畑で、あんなにおおきなものが、あんなにたくさんごろごろしていると、見る者が声をあげずにおれないほどまるまるとふとった西瓜。濃い緑の中にかなり大胆なタッチで黒い亀裂模様を走らせた西瓜。叩くと厚い皮が太鼓の膜…

あらためてこうして  表象論1

あらためてこうして眺めてみると、あるいは聞いてみると違ったように見えたり聞こえたりするのは日常的によく起きることです。やはりわたしは料理のことを思い出します。ふだん自分でつくっているわたしは、よく自分でもつくるし、何度も食べたことがある料…