Naked Cafe

横田創(小説家)

お葬式

11月27日発売の『ユリイカ 特集*母と娘の物語 母/娘という呪い』に短編小説を書きました。こうして書くと、やはり、ほんと、怖いというか、おどろおどろしいですね。なのにいかにも問題がありそうには見えないところが問題というか、いままでほとんどすべての関係が問われることなく、ただただ、そう、ほんと、ただただ、ただただ、ただただ持続してきた母と娘の構造(=物語)がここにあります。

これを構造と呼ばずしてなにを構造と呼ぶのでしょう。勉強も仕事も恋愛も交友関係もすべて括弧にくくられ「母と娘」という関係に還元された、たかが二十か三十、歳が離れただけのふたりの女子に自由がないのはもちろんのこと、互いの存在を認め合うことすらできないのですから。産んだ/産んでもらったという関係であるにもかかわらず、いや、産んだ/産んでもらったという互いに直接的な存在、とはつまり関係のない関係であるからこそ、ただただ、ただただそれはつづくのです。

相米慎二『お引越し』のような母子家庭の娘として育った/娘を育てた女子にも、そうでない女子にも、この特集号を読んでほしい。かつて「父」と呼ばれた男たちが資本主義という構造(=欲望)の機械にされてしまったこの時代を生きるすべての女子は「母と娘」という物語を生きていかなければならないのですから。

「おばあちゃんにもおかあさんがいたんだよね?」
「当たり前じゃないか」
「おばあちゃんのおかあさんにも、おかあさんがいたんだよね? 会ったことあるの? あるよね?」
「さあもう寝ないと、おかあさんに叱られるよ」
「ねえ、おばあちゃんのおばあちゃんて、どんなひとだったの?」
「さあね。あんたのおかあさんくらいの歳で死んだんだよ」
「おかあさんくらいの歳で? 死んだの? おばあちゃんのおばあちゃんが? じゃー、なんでおばあちゃんがここにいるの? 生まれたの?」
「産んでから死んだんだよ。当たり前じゃないか」
「おばあちゃんのおかあさんを? おばあちゃんのおばあちゃんが死ぬ前に? なんかこんがらがってきた」
「お願いだから寝ておくれよ。叱られるのはおばあちゃんなんだから」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「ねえ。おかあさんのこと、嫌い? いつから嫌い? これからも嫌い? ずっと嫌い?  わたしは嫌い」