Naked Cafe

横田創(小説家)

人間関係

 麻結美のチャーハンはうまい。食べたことがある者なら知っている。しっとり系なのにパラパラしている。機嫌がいいときはチンジャオロースや豚のしゃぶしゃぶをのせてくれる。町中華のチャーハンだ。餃子もうまいし麻婆豆腐は鎌倉の人気店「かかん」に匹敵する味だ。
 イタリアンも得意だ。ミートソース・スパゲッティが「きのうの晩ご飯はボロネーゼだった」と大学のともだちに自慢したくなるくらい本格的だ。葉純も「このボロネーゼ大好き。まだ食べられます師匠」とおかわりを要求していた。
 麻結美はハンバーグも上手。普通につくれば、えってくらいおいしい。なのに、よーしきょうはがんばるぞー的なモードに入ったときに限ってつくる豆腐ハンバーグだけがいただけない。
 まずいとは言えない。言えるわけがないからまた食卓に並ぶ。渋谷で働いていたころ忙しくてついつい食事がおろそかになってしまう麻結美のために後輩がよくつくってくれたヘルシーなハンバーグを再現するため試行錯誤している最中だという。平日でも400万から500万。休日ともなれば1000万を優に超える。渋谷の109で働いていたころの話だ。

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清張短篇レアセレクション 女性篇「氷雨」/松本清張✕横田創

 風景描写は松本清張の文学の本質(不可避にして不可欠なもの)である。描写というよりそれは語りで、風景を描写していたはずがいつのまにか人間について語っている。文体(レトリック)そのものがトリックである。エドガー・アラン・ポー(「盗まれた手紙」)→谷崎潤一郎(「途上」)の系譜。松本清張の文学のふるさとである。

氷雨 清張短篇レアセレクション 女性篇 -松本清張 著|中公文庫|中央公論新社

 

わたしの産んだ、3人めのこどもは、のゆり、という/小林あんぬ

わたしの産んだ、3人めのこどもは、のゆり、という。のゆりは生まれたときから心臓に、小さな欠陥を抱えていた。……のゆりの心の動き。のゆりの愛とか生きる力とか伸びる姿を、ひとつひとつ記録するように綴った2025年・夏の日記。のゆりが生まれた日からブログに書き溜めたエッセーと一緒に本にしました。

著者:小林あんぬ
編集:横田創
デザイン・校正:平野明
写真:小林あんぬ
ページ:200頁
発行元:リスの朝ごはん

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言葉にバスタオルをかぶせる

 映画館で携帯の電源を切るのを忘れていたことに電話が掛かってきてから気づいた。切られた電話にもう1度掛けたら「電波の届かないところにいるか」のアナウンスが流れた。着拒されたと思ったに違いない相手にそうではないと伝えられないまま、誤解されたまま絶交してしまった女と女の話(『ウンジュンとサンヨン』という韓国ドラマ)をネトフリで観た。
 仕方がないとはわかっているけど、神様それはないよ、あんまりだよと思わずにはいられない出来事を記憶したまま次の神様それはないよ、あんまりだよと思わずにはいられない出来事を経験させられるドラマだった。
 意味がないことほど意味を持ってしまうのは世の常で。いまのいまついたこのため息は、ほんのちょっとだけいつもより長く呼吸をとめていたせいで起きたただの息継ぎで、その直前に言われたことに抗議をしたわけでもやってられないと言いたかったわけではないと言ったらよけいややこしくなると思って黙っていたら逆ギレされたと思われていた。なんてことはよくある話で。

青土社 ||ユリイカ:ユリイカ2026年2月号 特集=大前粟生