- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/11/06
- メディア: 雑誌
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一年の中で最も日が長い季節とはいえ、赤くぽってりとした夕日のおなかが丘の稜線に触れてから暗くなるまではあっというまだった。コウノトリの巨大なケージの網のあいだから空が擦り抜けるようにして落ちていった。明るいうちは展示場の中を所狭しと走りまわっていたエミューも膝をつき、干し草の山のようなかたちになって眠っていた。逆にタヌキは行動し始めたようだけど、暗くてそこに何匹いるかもわからなかった。オジロワシの白い尾が月明かりを受けて、枝も葉もない木のてっぺんに浮かんでいた。
11月6日発売の『すばる 12月号』に、あたらしい小説を発表しました。気づいたら、三年近くたってました。いつか観た、夜の遊園地をさまよい歩く孤児の少年が、結局最後は逮捕されるか補導されるかして車に乗せられ街を離れる、えらく感動したのに名前を思い出せなくて観たのはそれ一度きりのフランス映画みたいな小説を書きたいと思い始めた仕事なのですが、夜の動物園を歩いたのはほんの一瞬でした。夜よりも暗い、あるものに触れ、抱きしめるようにして書きました。