Naked Cafe

横田創(小説家)

自分はどんな傷を負っているのか。いつどこで、どんな傷を負わされているのか。見つめる。それはなにも作家の仕事だけでなく、人間にだけ課せられたものでもなく、すべてのものに負わされている使命だと思う。わたしにとって、それはなにかを言うことでした。なにを言うかはこの際問えない。問わない。言葉はいつでもわたしの傷でした。

いまここで思い出話をすることはしません。傷は思い出ではありません。話すことさえできないものです。そして数えることさえできないものです。

ずっとずっと、そしていまもわたしは悲しかった。この悲しみはつねに過去形でしか書くことのできないものでした。その渦中であってさえ遠く離れ、まったく別の次元から眺めることしかできないものでした。それがわたしの傷でした。そしておそらく誰の傷も、そうであるほかないものであるからこそ傷となり、それは存在するよりも先に刻まれていたものではないのかとわたしに想像させるものでした。通路でした。わたしはわたしの傷からこの世界を見つめるひとつの目でした。

こうしていままたわたしは自分自身の傷をえぐり出そうとしています。たとえどんなことであっても話すことは、言うことは、そしてなにより書くことは、わたしの傷なのです。わたしは傷なのです。