Naked Cafe

横田創(小説家)

鶏肉のシシカバブー ……クミンパウダーのすすめ


鶏肉が好きです。このあいだもテレビでやっていた芸能人がオススメするグルメな逸品みたいな番組で、決勝に残った三品は焼き肉、マグロのトロの巻物、サーロインのステーキで、ああ、やっぱり、いざとなったらひとは(というか、昨今の日本人は)牛肉やマグロのトロみたいなこってりしたものを選ぶんだなーと思い知らされたわけですが、わたしはそれでも鶏肉を選ぶ自信があるくらい鶏肉が好きです。だからふだん料理するとき使う肉は5:4:1の割合で鶏:豚:牛で、最近はラムを使った料理にもかなりはまっているので牛肉がさらに比率が下がるばかり。とはいえ牛肉は牛肉で、おもしろい食材であると最近見直し始めているので、それも合わせて紹介します。

去年まで、ネパールカレーのお店でバイトをしていました。そのときネパール人のコックさんに教えてもらったのがこのシシカバブーで、焼きたてをもらっては「うまい、うまい」と騒いでいました。もちろん家庭なので、カレー専門店であるそのお店みたいにタンドリーを使うことはできませんが、フライパンでもできるレシピを自分なりに考案してみました。シシカバブーは、トルコなどのイスラム圏ではケバブと呼ばれるように、牛肉や羊の肉を鉄の串に刺して焼く料理の総称であるようです。わたしには、それ以上のことはわからないのですが、インドや、インドとはビザなしで入国できるネパールでは鶏肉を使った、日本の「つくね」に似たシシカバブがわたしも穴熊も好きです。

ポイントは、クミンパウダー(クミンシードを粉にしたスパイス)を使うことです。ちなみにいまわたしが使っているのはSBの一番手に入りやすいものです。クミンシードが手に入ればそれでもちろん構わないどころかむしろ理想なのですが、スーパーでも比較的手に入りやすいパウダーのほうをきょうは使います。いずれにしても、クミンは最高です。本場な味のインドのカレーとか、ラムを使った料理を食べたりしたとき、なんだこの香りは! そう感じた料理の中にはクミンが使われていることが多いのではないでしょうか。牛肉にもとってもよく合うので、きのうは千切りにしたジャガイモと小松菜と一緒に炒めてみました。

ということで、まずは鶏肉のシシカバブーの作り方から。シシカバブーを焼いている横で焼いて鶏肉のうまみを吸ったキャベツのステーキと茹でジャガイモを添えて、シチリア産の海塩を、ちょちょっとつけながら食べるワンプレートにしてみました(粗塩めいたものがジャガイモの下に、見えます?)。

「鶏のシシカバブ」の作り方(2〜4人分)
鶏の挽肉    250グラム
ピーマン    4個
ピザ用チーズ  ひと掴み
卵の黄身    1個
ショウガ    1かけ分を摺りおろしたもの
クミンパウダー 小さじ1
カレー粉    小さじ1
塩胡椒     適量(塩は2つまみくらいがよろしいかと)  

 ピーマンのヘタを取って細かく刻む。1ミリ四方が理想。ピザ用チーズも刻む。これはあまり細かくするとゴミみたいになってしまうのでほどほどに。ショウガは皮を剥いて摺りおろす。
 ボールに鶏の挽肉(胸肉のものでも、もも肉のものでも、どちらとも表示されていないものでも)をボールに入れて塩胡椒して、1とクミンパウダーとカレー粉と卵を入れて、手でこねるようによく混ぜる。ハンバーグをこねるときと同じノリでよく混ぜる。
 2を四つに分けて、それぞれを手の上で棒状にまとめる。かたち的には「つくね」の感じで。それをサラダ油(大さじ1)を入れたフライパンに並べて中強火で、できるだけ動かさずに、しっかりと焼く。ここでしっかりと焼かないと肉汁を閉じこめる壁ができないので、きつねはきつねでも濃いめのきつね色になるまで焼いてから裏返して蓋をして、弱火でじっくりと蒸すようにして焼く。これもやっぱりハンバーグを焼くときと同じで、竹串を刺したとき透明な汁がじわーっと溢れ出てきたら完成。

ジャガイモがご飯代わりです。男爵でもメークインでも、最近流行りのキタアカリでも皮付きのまま弱火でじっくり茹でると水っぽくならず、かつ、ぱさつかず、しっとりとした茹でじゃがになります。茹で時間はだいたい30分から40分。熱いうちにがんばって、横に水を入れたボールを置くかして、指先を冷やしながら、ぴりーっと皮を剥いてください。シシカバブーを料理する前に茹で始めるのがコツです。たわしか手でごしごしっと洗って、わりと大きめの鍋でたっぷりめの水に浸して茹でてください。では、クミンパウダーを使った料理をもう一品。

「牛肉とジャガイモと小松菜のクミン炒め」の作り方(2〜4人分)
牛肉の薄切り   200グラム
ジャガイモ    2個(できればメークイン)
小松菜      半束
オイスターソース 小さじ1 


★牛肉の下味
クミンパウダー 小さじ1
お酒      大さじ1(日本酒でも、白ワインでも、紹興酒でも、ビールでも)
にんにく    1片(摺りおろし)
ごま油     大さじ1
乾燥オレガノ  大さじ1(隠し味に、もしあれば。けど、なくてもぜんぜん大丈夫)
塩胡椒     適量

 牛肉の下味を揉み込むようにして漬ける。ジャガイモは皮を剥いて、厚さ五ミリのスライスにして、同じ5ミリ幅の細切りにして水にさらす。小松菜は7〜8センチ幅のざく切りにする。
 フライパンに油をしかずに下味をつけた牛肉をひろげるようにして入れ、中火で炒める。すぐに水気を切ったジャガイモを入れて蓋をして蒸し焼きにする。牛肉に焼きむらができてもだいじょうぶなどころかむしろそれが理想。あとなぜかわからないけどジャガイモと一緒に炒めると肉が硬くなりにくい。あとさらに、ジャガイモのデンプンが片栗粉代わりになって味がつきやすくなるから、まさに一挙両得。途中、何度かフライパンを返しながら、ジャガイモに、ほくほく、というより、シャキッとした食感が残るくらいの感じで火が通ったら小松菜とオイスターソースを入れて、何度かフライパンを返したら完成。

ジャガイモを茹でずに炒めるのが意外というか奇異に感じるひとも多いと思うけど、中華や東南アジアの料理ではよくある調理法で、しゃきしゃきしてるくせに味がしっかりつくのでおすすめです。きっとじゃがいも観が変わります。牛肉とクミンの組み合わせは異国情調たっぷりで、わたしはいつも軽くトランス、いや、ショート・トリップします。似たようなノリの料理に、高山なおみさんのレシピで「じゃがいもと砂肝のにんにくバター炒め」(『じゃがいも料理』所収)というのがあるんだけど、それは我が家の定番料理で、白ワインビネガーの代わりにモルト・ビネガーをばしゃばしゃかけて食べます。これはほんと、もうやめてってくらいおいしいです。パセリの緑と砂肝の赤とジャガイモの白で色味も最高の、これぞクークーって感じの無国籍料理です(行ったことないけど)。あれ? 気づいたら、どっちもジャガイモを使ってました。てことは、クミンの香りとジャガイモは、きっと合うってことなんでしょう。クミンパウダーと一緒にコリアンダーパウダーを同量入れると、さらに異国情緒感が漂いますよ。