Naked Cafe

横田創(小説家)

緊急企画 安全保障関連法案とその採決についてのアンケート への回答(全文)

早稲田文学 2015年 秋号』に掲載されたアンケートへの回答の全文をここに掲載します。250字という依頼を2500字と勘違いして書いてしまった、推敲前のものです。

強姦した者は、してないとは言わない。したはしたけど、和姦だったと主張する。まさに安倍政権がそうで、従軍慰安婦が存在しなかったとは言わないが、強制ではなかった、和姦だった、相手も望んでしたことだと主張する。あたかも和姦であるかのように日米安全保障条約を改定するという、このたびの醜態の根は、そこにあると思う。言わずもがなのことだが、すべてのセックスは強姦である。暴力によって/おいて為されるものである。すべての条約が、不平等条約であるのと同じだ。平等な条約、合意の上でのセックス。そんなものがあると思うのは、ただの妄想である。強姦であったのかなかったのか。事後的に裁決する権利は、強姦された側の者にしかない。それは、された側にだけゆるされた快楽である。これはいじめではない、みずから望んでしたことだと言えるのは、いじめられた側の者だけであって、いじめた側の者が、これはいじめではない、合意の上でのセックスだと、ただちょっと遊んでやったのだと主張することは、おれは殺してない、相手が望んだから、殺せと言うから殺してやっただけだと主張することに等しい。浮世絵が印象派の絵画に多大な影響を与えたと言えるのは、印象派の画家たちだけであるように。ほらみたことか、日本の文化は偉大なのだ。西洋にも認められたのだ主張する。この倒錯が、安倍政権と、それを支持する者たちの根源にあるとわたしは思う。かつてこの国は、アメリカに強姦された。日米安全保障条約という、この不平等条約を、和姦だったと認めるのか(=親米)。強姦だったと主張するのか(=反米)。アメリカに強姦されることで発生したものは、日米安全保障条約だけではない。日本国憲法も、同じ暴力によって/において可能になったのである。かたちを与えられたのである。ゆえにわたしたちは、日米安全保障条約日本国憲法の発生、その生い立ちに対して、同じひとつの裁定を下さなければならない。日本国憲法第九条は和姦だったが、この条約の改定、その強行採決は強姦だ、押しつけられたものだと主張することはゆるされないことを、わたしたちは、肝に銘じておかなければならないと思う。

 

早稲田文学 2015年秋号 (単行本)

早稲田文学 2015年秋号 (単行本)